虫よけの神さま
遠山の谷は、山ばかりで田んぼが少ないため、農業ははたさくが中心でしたから、ざっこく
作りがさかんでした。
ざっこくには、ソバ、ヒエ、コキビ、タカキビなどがありますが、昔はアワもよくつくられて
いました。
アワにはモチとサカ(ウルチ)の二種類がありますが、モチアワはもちにつき、サカのアワ
はお米にまぜて主食にしました。
ところが、アワを作るのに一番くろうしたのが、「コウジク」という虫でした。
「コウジク」という虫は、見るからに気もち悪い虫で、こいつにやられると、またたく間に葉
やくきを食いあらされて、やがてはアワは枯れてしまいます。
悪いことに「コウジク」は、集団で発生し、一枚の畑を食ってしまうと、次から次に移動する
まことにしまつの悪い害虫でした。
いまでしたら「のうやく」をつかうと、いちころですが、くすりのないころは、手でとるか、
もしくはねぎさまにおがんでもらったり、お寺から「オセガキ」のお札をいただいてきて、はた
けのまわりに立てました。
いろいろのことをしても、だめなときは、小道木のおくまの神社から、かまどの下にたまって
いる灰(ハイボ)をもらってきて、アワに振りかけて虫をたいじしました。
古い時代からおくまのさまの灰は、「コウジク」によくきくといわれておりました。
ところで、おくまのさまは遠山の殿さまがきずいたという、くまの城(クマンジョウ)のふもと
にありますが、霜月祭をつたえている古い神社です。
祭日は十二月十四日ですが、この日は夜どおしかまどに火をたきます。
このときたまった灰が、「コウジク」の虫よけにつかわれたのです。
「コウジク」には、ほとほと困りはてているむらのしゅうは、あらそってお宮に灰をいただきに
くるので、かまどの下はいつもけずりとられたように、きれいになっていました。
おくまのさまの灰が、ほんとうに、「コウジク」にきいたかどうかはわかりませんが、わらに
もすがる思いで灰をアワ畑にまいたと思います。